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翌朝。
いつものようにスマホのアラームが朝を告げる前に目覚めた僕は、腕の中にいる、ブラインドカーテンの隙間から差し込む僅かな朝日に照らされた灯ちゃんを眺める。
彼女が安心しきった顔で僕の腕の中にいてくれるこの時間が、至福の時だ。
灯ちゃんが腕の中に来てくれるまでにいろいろなことがあったから。だから、余計にこんな何気ない朝がとても幸せに感じるし、彼女が愛おしくて堪らない。
彼女の温もりと香りを閉じ込めるように抱きながらシーツの海に揺蕩う艶髪を弄んでいれば、やがて静謐な空気の満ちた室内にアラームの電子音が軽やかに鳴り響いた。
「んん……」
それにすぐさま反応してモゾモゾと腕の中で身動ぎした灯ちゃんが、ノールックでスマホを探りアラームを止め、長いまつ毛の降りた瞼をゆっくりと持ち上げる。
そして僕とパチッと目が合うと、ふにゃんと頬を緩めて「おはようございます」と少し掠れた声で告げた。
「ん、おはよう。昨日は無理させちゃってごめんね。身体、大丈夫?」
起き抜けに彼女の頭を撫でながらそんなことを言ったものだから、何のことかと一瞬視線を巡らせた灯ちゃんが昨日の情事に思い至ったらしい瞬間、その色白の頬にポッと朱が差した。
「あ……、あ……、だっ、大丈夫、です……。その、下半身が少し重くて声が、若干出にくいですが……」
いつもよりも掠れて少しだけハスキーに聞こえる声は、間違いなく僕が昨日啼かせ過ぎたせいだろう。
「あー、ほんとごめん……。今日も仕事なのに、加減出来なかった僕が悪い……」
しょんぼり項垂れると、今度は灯ちゃんが僕の頭をふわふわと撫でる。



