寝室の扉を開くと、そこにはベッドボードに背を預け、サイドテーブルの暖色系の明かりだけで静かに本を読む和泉さんがいた。

……すごく綺麗。それだけでまるで一枚の絵画のようにサマになっているから、私はつい見惚れてしまう。

こんな人が私の彼氏で、これから先の未来までもらう約束をしているだなんて、まだ夢を見ているみたいだ。

でも左手の薬指についているリングを見て、夢じゃないと実感してにやけてしまう。


「あ、灯ちゃん、おかえり」

「……ただいまです。なに読んでるんですか?」


私に気付き、本から顔を上げた和泉さんの隣のスペースに静々と潜り込みながら聞いてみる。


「田井中先生の『水面に揺蕩(たゆた)う』だよ。知ってる?」

「あ、それ、私も読んだことあります。確か最後は……」


言おうとした言葉は、和泉さんに飲み込まれた。


「……こーら、灯ちゃん。僕はまだ初見だからね?結末言っちゃダメ」


唇に灯された熱とまだ至近距離にある和泉さんの顔で、あ、今キスで止められたんだと理解して、ボボボッと顔から火を吹く。


「キスなんて、金曜日の夜からもう数え切れないくらいしてるのに、毎回その反応が初々しくて可愛くて堪らない」


するとサイドテーブルに本を置いた和泉さんが、あっという間に私をベッドに組み敷いた。