「ねぇ、灯ちゃん。これ、今日着てくれる?」
「………⁉︎むっ、無理ですっ……!」
私の背中からその袋を引っ張り出して、こてん、と小首を傾げた和泉さんが耳元で色気たっぷりに囁く。
こんなの、恥ずかし過ぎて着られる訳がない……!
「……ダメ、かな?」
……あ、その顔。
和泉さんが、あの日私を毎週水曜日のランチに誘った時と、同じ顔だ……。
ちょっと不安げに瞳を揺らすその様子が、しゅん、と項垂れるゴールデンレトリバーみたいだなぁと、あの時も思ったっけ。
ーー結局、私の身体は最初から和泉さんのその顔に絆されるように出来ていたのもしれない。
毎週水曜日のランチに誘われた時。
告白されて、3か月のお試し交際を申し込まれた時。
それ以外にも、何度も何度もその顔に絆され翻弄されて辿り着けたのが今この場所だとしたならば。
ーー私は今、この顔に抗えるのだろうかーー。
「ねぇ、灯ちゃん……?」
「………〜〜〜っ、あーっ、もうっ!分かりましたっ!きょ、今日だけっ、今日だけですからねっ⁉︎」
……案の定、ダメ押しのその表情にすっかり絆されてしまった私は、半ば投げやりにそう叫ぶハメになった。
その顔こそ、何かの魔法なんじゃないかと思う、本当に。
すると、和泉さんは少し意地悪な笑みを浮かべ、私の頬を撫でて言った。
「ありがとう、灯ちゃん。ーーじゃあ今日は、たっぷり《《2人で》》、楽しもうねーー?」と。
ーーーー紳士だと思っていたイケオジは、意外と強引で策士で、時々甘くて。
そんな彼に、私はもう、一生敵わないのかもしれないーーーー。
ーfinー



