「男の短い髪なんて、軽くタオルドライすればすぐ乾くから、平気だよ?」


髪を拭いていたタオルを首に掛けた和泉さんは、ほら、と自分の髪を一筋摘んで笑ってみせた。


「いやいや!せっかくなので、和泉さんにもバニラハニーつけて乾かしてあげたいです!」


そうは言ってもちょっとこの卑猥な思考回路を正常に戻す時間を下さい……!と思いながら、洗面所に置いて来たヘアオイルを取りに行こうと急いで抱えていた膝を解いて立ち上がりかければ、くい、と腕を引かれて私はぽすん、とソファーの上に逆戻り。


「うーん、それはそれでとても魅力的なお誘いなんだけど……。さっきからこんな美味しそうな灯ちゃんを前にして、もう"待て"は出来そうにないんだよね」

「……っ⁉︎」


さっきまでは普通、のはずだったのに、私を捕らえたその瞳が急に熱を帯びるから、私は息を飲む。

この時点でそこにばかり意識が集中していた私は、和泉さんが上がって来てからずっと、堂々とすっぴんを晒しているということにすら気がついていなかった。


「ーーだからもう、食べてもいい?」

「う……!」


食べたいって、やっぱりそう言う意味だったの……⁉︎


ところが私があわあわしている間に、ぐい、と和泉さんがこちらへ身を乗り出して間合いを詰めて来る。

距離を取ろうにも、ソファーの端っこでは背もたれとアームレストに阻まれて下がることも出来ない。


「灯ちゃん。覚悟しておいてって言ったよね?ーー煽った責任取ってもらうから、もう大人しく、観念しなさい」


優しい響きを持つくせに、そこに多分に色を乗せたその声がざわりと私の鼓膜を撫でる。

そして私のメガネをそっと外してローテーブルに置いた和泉さんは、次の瞬間、私の後頭部に手を添えて、私の唇を自分のそれで塞いだ。


三度目のキスは、二度経験したそのどれとも違っていた。

まるで、本当に食べられてしまうんじゃないかと錯覚するようなキス。

思わずぎゅっと目を瞑る。


「ん、いい子。鼻で息するのも忘れないで」


僅かに唇を離して、和泉さんが優しく囁く。


「ふ……、は、い……」


私の吐息に紛れた返事を聞くと、柔く笑んだ和泉さんはまたキスを再開した。