「いっ、今のはっ……!」

「ーー前言撤回は認めません」

「撤回は、しないですけど……っ、」


とりあえず今の発言に対して何かフォローを……!と慌てて口を開いたけれどそれはあっさりと遮られ、でも撤回をするつもでは無かったために素直にそう返せば、再びぎゅっ!と和泉さんの腕の中に囚われてしまう。

さっきから目まぐるし過ぎるこの状況に、ドッドッドッドッ、という自分の速すぎる鼓動と、直接響いて来る、和泉さんの心なしか少し速い気のする鼓動が混ざり合う音だけに神経を集中させていれば、


「……はぁ……。そんな可愛いこと言って、もう知らないよ?」


私の頭に顎を乗せた和泉さんが、盛大なため息を漏らした。


「え?」


「僕のなけなしの理性、たった今灯ちゃんが吹き飛ばしちゃったから。キスだけで止めてあげられる自信は、正直ない」

「……っ、」

「もちろん善処はするけど、保証は出来ない。……それでも、灯ちゃんはいいーー?」


私は、畳み掛けるように降って来たその言葉の意味を、冷静さを欠いている頭の中でも何とか咀嚼しようと試みる。


ーー恐らく私は今、暗に続きを望むなら、キスのその先まで行く覚悟はあるかと問われている。


それを理解した上で、考える。

私なんて、キスだってついさっき二度目を経験したばかりの、恋愛若葉マークの初心者だ。

和泉さん曰くあのキスはまだ序の口らしいけれど、その序の口のキスでさえ、私にとって初めての感覚を連れて来た。

それなのにさらにその先、となるともう未知の世界過ぎて、当たり前に怖いと思う気持ちはある。

でも和泉さんなら、私が怖いと言えば無理に進もうとはせずにきっと寄り添ってくれるだろうことは容易に想像がつくし、そういう彼とならその先へ進んでもきっと大丈夫だと、自然とそう思えた。


だから。


「ーーいいです。和泉さんなら」


和泉さんの胸に溶かし込むように、私は答えた。


「あー、もう……。オジサンを煽るとあとが大変だよ?灯ちゃん」


すると私を抱きしめる力を強め、和泉さんにしては珍しく余裕のない声を漏らす。


「あ、煽る、とは……⁉︎」

「……とりあえず、シャワーして来る。でも灯ちゃん。僕が戻ったら、覚悟しておいてーー?」


だけど和泉さんは私の疑問には答えることなく、先ほど引っ込めた熱と色気をあっという間に引っ張り出して来て。

それを存分にその声に含ませると、私の頭に小さなキスをひとつ落とし、扇情的な笑みだけを残してそのままリビングを出て行ったのだったーー。