紳士な副社長からの求愛〜初心な彼女が花開く時〜【6/13番外編追加】


「手放さなきゃいけないと思っていたのに。なのに、こうして僕のところに飛び込んで来てくれたんだ。もう放さない。責任なんて、喜んで取るよ。だってその責任は、僕が喉から手が出るほど欲しかったものだから」


嬉しくて、でも恥ずかしくて。

耳に流れ込んで来る優しいのに力強いその声を、私は和泉さんの胸に火照る顔を埋めたまま、彼の腕の中で小さくなりながら聞いていた。

どうしよう。しばらくはこの顔を、上げられそうにない……。


「ねぇ灯ちゃん。顔、隠さないで。こっち向いて?」


それなのに、和泉さんが少しだけ腕の力を緩めてそんなことを言うから、私はぶるぶると全力で首を横に振った。


「むっ、無理です、今絶対変な顔になってます……!」

「僕は、僕のことを好きだと言ってくれた灯ちゃんの、その可愛い顔が見たい」

「〜〜……っ、またそんなどストレートなことを……っ!」


もはや、沸騰寸前の顔からは湯気が出ている気さえする。

それにさっきまでは必死過ぎて気にもとめていなかったけれど、雨に濡れたせいでメイクだって崩れているかもしれない。

すでに晒してしまっているくせに、一度気になってしまえばなおさらもうそんな顔なんて上げられない。


なのに。


「ーー灯ちゃん。僕と出会ってくれて、僕を好きになってくれて、ありがとう」

「……っ、」


……和泉さんは、ズルい。


真っ赤な顔も、メイクが崩れているかもしれない顔も、恥ずかしい。

だけどこんなタイミングで愛おしそうに私の頭を撫でながらそんな風に言われてしまったら。

そんなの、私だってちゃんと伝えたいって、思っちゃうじゃないか。


「……それはこっちのセリフです……!こんな私を見つけてくれて、好きになってくれて、ありがとうございます……!」


だから意を決した私は、パッと顔を上げて和泉さんに精一杯の気持ちを返す。

今まではもらうばかりだったけれど、今度はちゃんと、返せるから。

たくさんもらった分、これから少しずつ、返していきたいと思うから。

すると一瞬だけ見開かれた形の良い瞳がゆっくりと優しく細められ、左頬にそっと手を添えられる。