私はひたすら走っていた。

色とりどりの傘を差して歩く人の波を縫いながら、雨に打たれるのも構わずに、ただひたすら。

普段の運動不足が祟って息が切れても、膝が悲鳴をあげ出して足がもつれても、それでも走り続けた。

真っ直ぐに、和泉さんを目指して。



そして目的の場所が見えて来た時。



そこに佇む人の気配を感じて、私は安堵した。

やっぱり和泉さんは、ここにいたのだと。


「ーー……和泉さんっ!」


ーーあの日、2人でピクニックをした思い出の場所。


その場所で雨に濡れていたその人は、少し離れた地面に等間隔に設置された頼りないライトに淡く照らされ、まるでキラキラと光の粒を纏っているようだった。

でも、それが何となく今にも消えてしまいそうな儚げな雰囲気を帯びていて。


「和泉さん……っ!」


駆け寄りながら必死にもう一度彼の名を呼ぶ。

そしてそれにピクッと反応した影に確信を得て、私は迷わずその胸に飛び込んだ。


「……灯、ちゃん……?」


どうしてここに……?瞠目したまま力なくそう続けた和泉さんにしがみつきながら、私は息も絶え絶えに叫ぶ。

決して雨の音に、流されないように。


「そっ、そんなの……!い、和泉さんを、追いかけて来たに……、決まってるじゃないです……か……っ!」

「……僕を?」


はぁはぁと肩で息をしながらも、それでも必死に首を縦に振る。

その反動で、前髪の先からポタ、と雫が滑り落ちた。


「和泉さんに、どうしてもっ、伝えなくちゃいけないことがあったから、だから……!和泉さんっ、私……っ、」


雨の雫に邪魔をされ煩わしくなったメガネを外し、私は勢いのまま、心に収まり切らなくなった溢れんばかりの気持ちを声に乗せようとした。


「……灯ちゃん、びしょ濡れだ」


なのに、私の頬を両手でそっと包み込んだ和泉さんは、親指で私の顔についた雨粒たちを優しく拭ってくれながら、それが音になる前にやんわりと遮った。


「そっ、そんなの平気です!それより……!」

「僕が平気じゃない。こっちにおいで?」


自分だってびしょ濡れのくせに、そう言って有無を言わせず、でも私を労るように樹の下に誘導すると「これは無事だから」と、樹の下に無造作に投げ出されていたジャケットをふわりと私の肩に掛けてくれる。