「ーー副社長。今のあなたにランチの時間にランチに出ている暇があると、本気でお思いですか?」



彼女に出会った翌日の昼。



ジャケットを片手に今日もふじさわ食堂に出かけようとすれば、高校の同級生でもあり、今は僕の秘書でもある瀬戸 朋哉(せと ともや)に真顔で止められてしまった。


「……(とも)くん、そこを何とか」

「……副社長、今は仕事中です。名前で呼ぶのはお止めくださいと、いつも言っています」

「朋くん。ここは副社長室で、しかも今は僕たち以外誰もいない。ならいいじゃない?」

「そういう問題じゃありません」

「もう、堅いなぁ朋くんは」

「……しれっと出て行こうとしないでください」


言いながらさりげなく無駄に重厚なダークブラウンのドアについているアンティークゴールドのノブに手を伸ばせば、呆れ顔の上に乗っているリムレスフレームのブリッジを中指でクイ、と上げた朋くんが、するりとドアの前に立ちはだかる。


「昨日だって私がちょっと目を離した隙にフラッといなくなって……。放浪癖も大概にしてください。今日はダメですからね。決済の必要な稟議書類が溜まっています。それに午後からは街頭調査を元にしたマーケティング部、開発部との合同商品開発会議に出席したあと、」

「ーー会いたい人が、いるんだ」

「……は?」


秘書らしくツラツラと今日の予定を述べ出した朋くんをそう遮れば、彼の眉間に皺が寄った。