「だから灯ちゃん。早くあの人のところへ行って伝えてあげて、灯ちゃんの気持ち。きっとさっきの彼のこと、何か誤解してるから」

「……はい」

「……って言ってもあの感じは真っ直ぐ家に帰ったとも思えないし、かと言って会社に戻ったって訳でもなさそうだし……。一体どこに何の急用片付けに行ったんだか。……ねぇ灯ちゃん、追いかけるにしても今のあの人の行きそうなところ、分かったりする?」

「……はい、たぶん」




ーー何となく、あそこじゃないかなっていう場所がある。

そして、きっと和泉さんはそこにいる。


根拠はないけれど、なぜか確信に近い、そんな予感が私にはあった。


「よし!じゃあいってらっしゃい!」


そう言ってくるんと私を方向転換させた彩也子さんは、私の背中をそっと、でも力強く前へと押し出す。


「彩也子さん。いろいろとありがとうございました……!」


慌てて肩越しに振り返りお礼を伝えれば、彩也子さんがこくりと頷いて破顔した。



それを見届けて、私は前を向いて走り出す。


やがて、空からポツリと落ちてきた雨粒が私の頬を掠め、それは次第にカラカラに乾いていたコンクリートに吸い込まれてどんどんその色を変えていったけれど、そんなのお構いなしに私は走った。


和泉さんが私にいつもそうしてくれていたように、今度は私が和泉さんに、どストレートに気持ちを届けるために。

ただひたすら和泉さんを、和泉さんだけを目指してーーーー。