「……彩也子さん」

「はい?」


改めて、彩也子さんの名前を呼ぶ。


「……お会いするのはまだ2度目ですが、彩也子さんは、女の私から見てもとても魅力的で素敵な女性だと思います」

「……え?え?なに、どうしたの突然……⁉︎」


私の言葉に一瞬ポカン、となったあと、彩也子さんが急に慌て出した。


驚くのも無理はない。あまりにも唐突だったという自覚はある。


でもこれから先話すことは、もしかしたら彩也子さんを不快な気持ちにさせてしまうかもしれない。


それでも私は今、ここできちんと彩也子さんと話をしなければならないのだ、和泉さんのところへ行く前に。 

心臓が、バクバクとうるさいくらい鳴っているけれど、私は何とか自分を奮い立たせて震える唇を動かした。



「い、和泉さんが彩也子さんに惹かれた気持ち、とてもよく分かります。だからそんな彩也子さんにもしもう一度頑張られたら、和泉さんだって一溜(ひとた)まりもないんじゃないかって、あれからずっと不安でした」

「灯ちゃん………?」

「……黙っててごめんなさい。この間比呂さんが言ってた、"和泉さんのことは好きだけど恋愛としての好きかどうか分からないとかウダウダ言ってるクソ真面目な女"って、私のことだったんです」


彩也子さんが、こくりと小さく唾を飲み込んだ。


「でも私、あの時の"もう一度頑張っちゃおうかな"っていう彩也子さんの言葉のおかげで、気づけたんです。和泉さんのことを、もうとっくに恋愛としての意味で、1人の男性として好きになってたんだってことに」

「灯ちゃん」


「だから、私はこれから和泉さんを追いかけて、ちゃんと自分の気持ちを伝えて来ようと思います。彩也子さんに、頑張られちゃう前に。

ーーだって和泉さんの隣は、彩也子さんにも誰にも、譲りたくないから」


彩也子さんから目を逸らさずに、私は言い切った。

これまで人と深く関わって来なかった私が、家族以外の人に面と向かってこんな風に自分の意思をはっきりと伝えたのは、初めてかもしれない。

でも、それだけ私にとって和泉さんは、失いたくない大切な存在になってしまったから。

だから膝は少し震えているけれど、私はもう、一歩もあとへは引けない。


すると、それまで神妙な面持ちで私の話を静かに聞いてくれていた彩也子さんが、ふ、とひとつ、笑みをこぼした。


「…ねぇ灯ちゃん。それはもしかして、宣戦布告ってやつ?」