「……おや?ところで灯ちゃん、この前一緒に飲んだ時も十分可愛かったけど、今日はまた一段と可愛くなっているねぇ?」

「……えっ?」


すると、彩也子さんがグイッと近づいてきてまじまじと私の顔を見つめたかと思ったら、突然パッと顔を輝かせた。


「……ひょっとして……。……ねぇ恭加、知ってる?女の子が可愛くなる時っていうのはねぇ、大抵恋……」

「ーー彩也子ちゃん、ごめん。急用を思い出したから、今日はここで失礼するよ」


だけど、いつもなら穏やかに人の話に耳を傾けて優しく相槌を打ってくれる和泉さんが、そこで急に彩也子さんの言葉を遮った。それも、少し強めに。


「え?」

「また今度、日を改めて」

「は?え?ちょっと、恭加⁉︎」


そしてちょうど通りかかった空車のタクシーを捕まえると、呆気に取られている私や彩也子さんをそこに残してサッと乗り込む。

でもドアが閉まる直前、一瞬だけ私の方を向いた和泉さんの表情に、私は言葉を失った。


だって、和泉さんがまるで今にも泣き出してしまいそうな、そんな切なげで苦しげな微笑を称えて真っ直ぐに私を見つめていたから。


「ーー灯ちゃんも、気をつけて帰ってね」


ーー喉がつかえて、上手く言葉が紡げなかった。


引き止める言葉も、和泉さんの、名前さえも。


それほど今まで見たことのない和泉さんの表情に、私は衝撃を受けていた。



そして無情にもパタン、とドアは閉まり、和泉さんを乗せたタクシーはそのまま走り去って行ってしまったのだった。