「…お、っと、危ね…。本当に大丈夫?」
それを樹くんが咄嗟に私の背中に手を回して正面から抱きとめてくれる。
「……っ、ごっ、ごめん!これはアルコールのせいじゃない、ただの不注意!だから大丈夫」
「……くくっ……!なーんかもう、深町が面白過ぎる……」
踏み外したことへのドキドキと、樹くんの意外と逞しい胸に自分がすっぽりと収まってしまったことへのドキドキと。
そんな忙しない心臓を抱えながら慌てて樹くんから離れようとすれば、私をギュッとしたまま樹くんが私の肩に顔を埋めて笑っているから、離れることが叶わなかった。
「ちょ、樹くん、この体制のままツボに入らないで……⁉︎」
「ああ、悪い悪い……、くく……っ!ダメだ、止まらねー」
「絶対樹くんの方が酔ってるでしょう……⁉︎」
昔から明るい人ではあったけれど、お酒が入ると笑い上戸にでもなるのだろうか。
どの辺りがツボだったのかは全く不明だけれど、樹くんの笑いが止まらない。
もう!と容赦なくペシペシと樹くんの背中を叩いていれば、ようやく背中に回っていた彼の腕から解放されたのだけれど。
「灯……ちゃん?」
樹くんの背中越しに微かに聞こえてきた私を呼ぶその声に、ピクリと小さく身体が反応した。
会いたい、会いたいと思い過ぎて、ついに幻聴まで聞こえてしまったのだろうか。
そう思いながら恐る恐る樹くんの肩越しに視線を移せば、紛うことなき和泉さんがそこにはいた。



