「ぶっ……!」
心を落ち着けるために小さく深呼吸をして、ひと口アプリコットフィズを飲み。
その少し汗のかいたグラスを両手で握りしめ、そこに目線を落としたままで震えそうになる声を一生懸命樹くんに向かって押し出せば、いきなりぶち込んでしまったせいで彼が勢いよく吹き出した。
カシャン!カランカラン……。
それと同時にカウンターの中から響いて来た賑やかな音によって、「だ、大丈夫…?」と樹くんにおしぼりを差し出そうとした手が一瞬止まる。
音のした方へ目を向ければ、どうやら比呂さんが何かの調理器具を落としてしまったらしい。
「……失礼致しました」としゃがんでそれを拾い上げたあとの比呂さんと目が合ったけれど、ものすごく、何かを言いたそうな目をしていた。
たぶん、きっと、いや絶対、彼の想像していたタイマンの内容とは違ったからだろう……。
「深町……。1回落としてからのそれは、ちょっとズルくない……?」
でも、今度は隣からポツリと漏れたその呟きにハッとして再びそちらを見れば、何故か樹くんはカウンターに肘をつき両手で顔を覆っていた。心なしかその耳が少し赤いような気もするけれど、これは照明の加減のせいだろうか。
「……ねぇ深町。……それ本当?」
「……うっ、うん、樹くんが、私の初恋……」
両手の隙間から少しだけ瞳を覗かせた樹くんに上目遣いで問われ、私は恐る恐る肯定する。
「はぁぁぁ……、マジか……」
樹くんの顔が、再びその手の中に隠れた。
「ごっ、ごめん!10年ぶりに会ったただの中学のクラスメイトに今更そんなこと言われてもって感じだよね……!」
この喧騒の中、しかも顔が手で覆われているにも関わらずしっかりと耳に届いてしまった大きなため息。それに動揺した私は慌てふためく。



