「そっ、それより!樹くん、あの頃の夢、叶えたんだね。昔言ってたもんね、絵に携わる仕事に興味があるって」
ーーまだ樹くんと普通に喋れていた頃、サッカーだけじゃなく美術も得意だった樹くんの絵が絵画コンクールの中学生の部で入選したことがあった。テーマは"心に残る風景"。
樹くんがそのテーマで描いたのは、高台にあったうちの中学から見下ろした夕日に染まる街で。
私は彼のその絵から滲み出る、まるで今にもどこかの家から夕飯の匂いが漂って来そうな、そんな優しくて温かい雰囲気が、とても好きだった。
だから樹くんがいつものように話しかけて来てくれた時についそれを伝えてしまったら、樹くんが照れくさそうにそう教えてくれたことがあったのだ。
「……よく、覚えてたね、そんな昔のこと」
「………うん、好きだったから」
「ーーえ?」
「あっ、いやっ、あの絵が!樹くんの描いたあの夕日の絵がすごく好きだったから、覚えてた!」
「…そっか」
樹くんの目が一瞬丸く見開かれたのを見て、ついこぼれた本音を咄嗟に誤魔化してしまった。
……でも違う。これは誤魔化しちゃダメなところだった。
だって私は今日、あの頃の気持ちを含めて樹くんと向き合ってケリをつけるって、そう決めてここへ来たんだから。
ーーだから、このチャンスを絶対に逃してはいけない。
「……ごめん、絵だけじゃない」
「ん?」
「……本当は樹くんのこともね、好きだった、あの頃」



