「深町はフラワーテラス、来たことある?」
「あ、うん、ちょうどゴールデンウィークに、緑地にピクニックをしに」
私の返答に、比呂さんがわずかにピクリと反応した。
……そうだった、そういえばあのピクニックの時、和泉さんが比呂さんにデリバリーを頼んでたんだった。
デリバリー、していないお店なのに。
それを思い出してつい笑いそうになれば、比呂さんは一瞬だけじとりと私に目線を寄越してから「鴨肉のローストと、ハマグリの酒蒸しです」と、これまたしれっと営業スマイルで私たちの前に追加の料理を並べた。
それから、「これ2番テーブル」とちょうどカウンターにオーダーを通しに来た光太郎くんにもう1つの鴨肉のローストを手渡したあと、早速新しく入ったオーダーに取り掛かっている。
金曜日の夜は、やっぱり忙しそうだ。
「お、これも美味そう。いいね、ピクニック。オレもクライアントからリテイク出されて煮詰まった時、よく息抜きにあの緑地散歩してる」
緑地で息抜き……。
「…ふふ、同じ」
「ん?」
「あ、ごめん、その一緒にピクニックした人がね、フラワーテラスの近くに勤めてて。その人もたまに会社抜け出して息抜きに行くって言ってたなー、って思い出して、一緒だなって。でも勝手にフラッといなくなるから、よく怒られるんだって」
「…深町、何か楽しそう。めっちゃ良い顔してる」
「えっ⁉︎そっ、そう⁉︎」
あの時の、『しょっちゅう怒られてます』と言っていた和泉さんのちょっと戯けた表情を思い浮かべていたら、どうやら顔が緩んでいたらしい。優しく眦を下げた彼にそう指摘され、急に気恥ずかしくなった私は慌てて話題を変えることにした。



