「仕事、平気?」  

「うん、ごめん、大丈夫」


私の右隣でジンバックを豪快に流し込み、「美味そうだね。食べよっか」と顔を綻ばせた樹くんといただきますをしてから、まずはチョリソー、ハーブ、スモーク、ガーリックの4種のソーセージ盛り合わせに2人で手を伸ばした。

ちなみにこれは何度か食べたことがあるけれど、私のお気に入りはハーブ。添えられた粒マスタードをたっぷりつけていただくのがお気に入りだ。

樹くんはチョリソーから。パリッと小気味の良い音が響く。


「そういえば樹くん、今度うちの新商品のパッケージデザインを担当してくれるんでしょう?」

「ああ、うん。ーー改めまして、御社のパッケージデザインを担当させていただきます、京野です。以後お見知り置きを」


食べながらそう問えば、急に居住まいを正して丁寧に、でもちょっと戯けた口調で差し出された名刺。思わずくすりと笑いながら、私も樹くんに倣って居住まいを正し、それを両手で受け取った。


"イヴェール・デザイン グラフィックデザイナー
 京野 樹"


そこにはそう印刷されており、さらに何気なくその下に視線を移してみれば、記載してある会社の住所が何とフラワーテラスの25階となっていて。

だから会社からも割と近いこのRoku(ロク)が彼の先輩オススメのお店だったのか、と腑に落ちたと同時にハッとなった。


「樹くんの会社、フラワーテラスに入ってるってことは今日わざわざうちの会社まで迎えに来るの、手間だったよね?ごめんね!連絡先と場所教えてくれたら現地集合で良かったのに……!」


そう。今日の目的地がここだったのなら、樹くんはわざわざ電車に乗る必要はなかったのだ。だってここは、フラワーテラスから徒歩圏内なのだから。

それにRoku(ロク)なら何度も来ているから、私1人でも迷うことなく辿り着けた。

現地集合にしておけば、樹くんも楽だっただろうに…。


「何で深町が謝るんだよ。言ったろ?事前に断られる可能性は潰したかったから連絡先渡さなかったって。それに今日は出先からの直帰だったから、深町の会社の最寄駅、ちょうど通り道だったし」

「…そっか、ありがとう」


それが本当なのか、それとも私に気を遣わせないための方便なのか私には判断出来ないけれど、そういうところ、やっぱり樹くんは変わってないなぁ、と思う。とても優しい。