えっ⁉︎も、もう⁉︎

話していた間にもう到着してしまうらしい。

スマホを耳に当てたまま急いで玄関を飛び出せば、ちょうどハイツグリーンの前に黒塗りの車が停まるところだった。

何度か乗せてもらったことのある車とは違うから、きっとこの車は社用車なのだろう。

秘書さんらしき人が後部座席のドアを開け、そこから降りようとしている和泉さんが見えた。

今行きます!と電話を切って、私も急いで階段を駆け降りる。


「……初めまして。副社長の秘書を務めております瀬戸と申します。副社長がいつもお世話になっております」

「あっ、はっ、初めまして……!こちらこそいつもお世話になってます、深町 灯です!わざわざこんなところまですみません!」


後部座席のドアに手をかけたままの秘書さんと和泉さんよりも先に目が合ってしまい、お互いに会釈しながら自己紹介を交わし合う。

年齢は和泉さんと同じくらいだろうか。このいかにも仕事の出来そうなクールな雰囲気を纏った瀬戸さんが、以前和泉さんが"有能だけど怒ると怖い"と言っていた秘書さんかな。

確かに怒ると怖そうだ。


「……瀬戸。僕より先に灯ちゃんに話しかけないでくれる?」

「……くくっ、これは大変失礼致しました、副社長。では(わたくし)は運転席におりますので、どうぞごゆっくり」


むっ、とした表情で降りて来た和泉さんを見て、喉の奥で笑いを噛み殺しながらもそう言って運転席に戻る瀬戸さん。

和泉さんに対する口調は丁寧だけれど、2人の間には何となく気安い雰囲気が滲んでいるような気がした。


「……全く……。〜〜……っ!」



そして改めて私と対峙した和泉さんだったけれど、次の瞬間にはなぜか手の甲で口元を隠し、私からふい、と目を逸らしてしまう。