「いらっしゃいませ。」


桜子はそう言うと、お客の顔を見た。そして、そのまま凍り付いたように動けなかった。

「どうしたの?」

風輝が聞いた。


「あの人、芸能リポーターよ。あたしとタケルを、散々付け回していた男だわ。」


「なんだって?」

「なんで今頃…。あたし、こわい…。」


そう言うと桜子は、二階へいってしまった。

風輝は、その男に水を運んだ。


「いらっしゃいませ。メニューをどうぞ。」


男は、風輝を見上げた。


「今の人、モデルやっていた桜子さんでしょ?」


「さあ?僕はわからないけど。」


「とぼけなくてもいいよ。わかってるんだ。へえ、こりゃびっくりだ。」


男は、ニヤリと笑った。

風輝はカチンときて、怒鳴る。


「なんだよお前は!だから何だよ!帰れ!」


「おい、俺は客だよ。それに用事があるのは、あんたのほうさ。」


「え?何を言ってるんだ。」


「あんたの母親の事さ。タケル知ってるだろ?」