桜子は、うなされて目を覚ました。智也は今どうしてる…。
たまらずにケータイに手を伸した。
もしかしたらもう、新しい彼女がいるかもしれない。

「智也…。わたし」


「桜子…。…元気そうだね…。」


「うん、やっと落ち着いてきたの。あたし、今度一人暮らしするんだ。」


「そう、良かったな。お前の事を見ない日はないよ。売れてほんと良かったな。俺は…俺はお前の事を、思わない事はなかったよ。」


「あたし…智也…ごめんね。」


桜子は、何を言っていいかわからなかった。それはもう、智也に心を動かす事のない自分を、はっきりと自覚したからだった。


「桜子、俺はあれから実家へ戻ったんだ。もう、あのアパートは引き払った。俺達の思い出はもうない。心の中だけ…さ。」

智也はそう言うと、電話を切った。ツーという音だけが、桜子の耳に響いていた。

桜子はため息をついた。そして鏡の前に立つとにっこり笑った。


「さあ、今日も仕事よ。私は桜子、売れてるモデル。笑。」


そう言うと、今日も仕事場に急いだ。