「ちょっとー、やめてね。」


桜子は、タクシーに乗せられた。


「そんなにすねないの。笑。」


まただ…また、タケルの奴えらそうに。


「だいたいさ、あたしすねてなんかないし。そりゃさ、あんたはあたしにないものたくさん持ってるけど。」


そう言いながら、桜子は小さい頃の事を、思いだす。
父が遊び歩いて、久し振りに家に帰った。後から女が2人、一緒に家に上がり込んだ。いかにもお水の格好で、一人は着物だったような気がする。私は幼かったので、久し振りの父の膝の上に乗った。父達3人は、畳の上に座布団を広げ花札を始めた。その着物の女が、立ち膝で花札を投げている姿が強烈に焼付いている。股の間から刺青がのぞいた。まるで仁侠映画だ。その時の母は、どうしていたのだろうか。
桜子は、ため息をついた。まただ…。ひどく落ち込んで来た。

その時、タケルがぽつりと言った。

「桜子、僕は確かに桜子より裕福な環境だったかもしれないけど、それが幸せだったとは限らないよ。」


桜子は、はっとしてタケルを見た。