「あん、もういい!」


桜子は、智也の腕からすり抜けながら言う。


「あたしが高校中退だからって、馬鹿にしないで。」

「そんな、馬鹿になんてしてないよ。ほんと悪かったってば、桜子の夢だもんな。」


そう言う智也の顔を見ながら、桜子は続けた。


「あたしは仕方なく辞めたの。授業料払えないから…。それにね、夢じゃないの、ほんとに有名になるんだから。」


智也はうんざりした顔で頷く。これ以上言っても、また言い争いになるだけさ。
気まずい空気。

その時、桜子のケータイが鳴った。

「あ、モデル事務所からだ!」

桜子は慌てて、ケータイを開いた。

「ああ、桜子?すごーいわ!いい仕事よ。あなたをご指名でね。CMだから、詳しくは明日事務所で話すから。9時に厳守で。」


桜子は、飛び上がった。


「智也、智也ってば、ねえ、CMだってどうしよう。」


そう言いながら、嬉しそうに鏡を見る。

智也は、へえ、良かったねといいながら、ほっとした。もう、いまの忘れるさ。