「おい、春多。ゲーム機くらい親に買って貰えよ」
「俺んち、片親だから無理」
「はぁ?じゃーなんで私立なんか通ってんだよ」
「母さんは、超金持ちの愛人なんだよ」
小学3年生の時だった。
俺の部屋でゲーム画面に向ける春多が、ニヤーと口元を緩めてそう言った。
じゃぁ、買って貰えるじゃん。後からそう思ったけど、その時は何て言葉を返していいか分からなかったんだ。
(※本当は母親に"春ちゃんゲームやる子は不良なのよ"と言われてるから)
川田春多。片親なのに私立なんて珍しいケースだった。大学付属私立校。幼稚部からエスカレート式で小学部に上がってきた奴。
頭と顔と外面だけは良くて、やけに自信たっぷり。決して悪い奴ではないのだけど、計算高く嫌味なところがある。
そのまま偶然にも、中学部、高等部、大学の医学部と腐れ縁となっていった。
そんな奴に人生の岐路が現れたのは、入学して間もない頃。解剖学の抗議の真っ最中──。
バタン。スライド式の扉が勢い良く開けられた。
「春多、来なさい!早く!!」
春多の名前を呼んだのは、誰もが知っている大学病院の院長の姿だった。いつも威厳のある病院長が汗だくになっていた。
すぐ隣の席に座っていた春多も、意味が分からずポカンとしていた姿を今も覚えている。