駆け寄った唯くんを追い掛けると「助けて、唯」という涙ぐんだ沙弓ちゃんの声が聞こえた。 「買いたい本があってここに寄ったんだけど、お店を出ようとしたら傘がないの」 「傘が?」 「うん。多分誰かが間違って持っていっちゃったのかも⋯」 困った様に眉を八の字にさせた沙弓ちゃんに唯くんは難しい顔をする。 「沙弓の傘ってビニール傘をとかじゃないだろ?それ盗まれたんだよ」 「えぇ⋯!?」 「ったく、帰りどうすんだよ?」 呆れた様な表情だけど優しい唯くんの横顔を見て心がザワザワした。