「でも意外ね。華やかな世界を好みそうなメティアなのに」

 その地が本当に山岳部であるのなら──そうでなくともメティアが「穏やか」だと言うのであるから、決して都会ではないのだろう。

 そのような地方へ(きょ)を構えることを夢見たメティアを、アンは不思議に感じた。

「こんな生活はあと数年で十分さ。世の中を存分に楽しめば、おのずとひとところに落ち着きたくなるもんだよ。あたいがこんな格好をしてるのは、男共に虚勢を張るためだしね。あたいだっていつかはちゃんと家族を持ちたいんだ……残念ながらレインはもう「お手付き」だから、他のイイ男を見つけなくちゃいけないけどさ!?」

「お手付き?」

 すぐには理解の出来なかったアンを、メティアは楽しそうに笑う。

「でも……ご家族の元へは戻らないの?」

「そうさね~弟妹(きょうだい)たちのことは気になるけど、娘を売った親には会いたいとも思わないからね」

「そう……よね」

 幾ら幼子たちのためとはいえ、家族の一員を犠牲にした家長の罪は重い。

 母国ナフィルにもそうせざるを得ない一家があるやも知れない。

 他人事(ひとごと)とは言い切れない世情を、やがては国の長として見詰めなければいけない日々が来る。