「もうっ、レインの意地悪! どうして訂正してくれなかったの!?」

 レインが到着した朝と同様、フォルテの階段を駆け上がる音が響いて。

 アンはやっと自分の(あやま)ちを知った。

 中性的な顔立ちの上に、まだ声変わりもしていないのだ。言われなければ少女と勘違いしてしまうのも仕方あるまい。

 速攻パニには謝罪を入れたが、もちろん「彼」は気にしてなどいない。

 その分気持ちの収まりどころが見つからなかったのか、アンの追及はレインに向けられた。

「ゴメン、ごめん! アンが「少女」と言っても、パニが正さなかったからさ。それに……少女といえども女性を連れてきたら、少しはヤキモチ焼いてる顔を拝めるかと思って?」

 フォルテのように頬を膨らませて怒るアンも、レインのおどけたウィンクにはつい調子が狂ってしまう。

 その一瞬の隙をついて、レインはアンをつと抱き締めた。

「ヤキモチなんて……焼かないわ」

「そ? それはちょっと残念」

 既に帰還計画はまとめられて、侍従もフォルテもパニも階下に待機していた。

 レインが現れた時と同様に、その背に腕を回したアンは、

「だって、ちゃんと信じているから」

 上気しそうな頬を、レインの肩先にそっと押し当てた。

「うん。ありがとう、アン」

 彼女の言葉に満足したように、柔らかく口角を上げるレイン。熱い口づけを何度となく交わし、おもむろにアンを解き放した。

「ごめん、そろそろ行かなくちゃいけない」

「そ……よね」