「アン……それからもう一つ、必ず届けるから待っていて」

「はい……?」

 思い詰める度に落ちてゆく目線が、レインの続けられた言葉に持ち上げられる。視界を埋め尽くしたのは常に変わらない(ほが)らかな微笑み。

 そう、この笑顔が隣にあったからこそ、自分はどんな悲しみも苦しみも乗り越えてこられた。

 今はこの輝きに身を(ゆだ)ねろと、天から言われているのだと思いたかった。いや、この光明がある限り、きっと道は開ける筈だ。

 そう思わせてくれる何かが、レインの唇から流れる言葉にはあった。

 その唇がアンの耳元に近付いてくる。内緒話をするように掌を添えて、吐息の掛かる至近で明かされた。

「忘れたのかい? ──正式な……婚姻契約書……だよ!」

 付け加えられた「お届け物(愛の証)」と眩しいくらいのウィンクは、アンの胸に渦巻く不安を一掃した。もちろん……侍従二人を蚊帳(かや)の外に置き去りにして。



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