意気ある彼の言葉の数々は、停滞しそうな空気をかき混ぜてくれる、まさしく一陣の風のようだった。

 だがレインはアンの質問には答えず、すぐに続きを話し出した。

「君たちがこの国に閉じ込められてしまったのは、きっと僕の所為(せい)なんだ。今回の結婚を破談にして、ナフィルを属国に降格させるため、政府はアンを人質に()るつもりだった」

「人……質」

 レインの前に立ち上がったアンは、その言葉を噛み締めるように繰り返した。

「王宮でナフィルの傭兵が謀反(むほん)を起こしたとなれば、国民想いの君のことだからね、国王代理として直ちに登城すると、政府は単純に見込んでいた。だけど君はむしろ民のため、安直に出ていくことを避けて忍んだ。自分は何と聡明な王女を(めと)るのかと、我ながら誇りに思ったよ、アン」

 元気良くウィンクを投げるレインに、少々驚いた様子で視線を落とすアン。隣に戻った彼女の肩を引き寄せて、レインは愛おしそうにその額へ口づけた。

 けれどアンはその感嘆に、笑顔で応えることは出来なかった。自分は本当に国民のことを第一に考えられたのだろうか? 単に臆病だっただけではないのか? レインという味方がリムナトに居ないという心細さゆえに。