「姫さま……」

 フォルテの鼻のてっぺんが、泣くのを我慢するように赤く染まる。泣きたいのは姫本人であろうと思えば、益々赤みが増してしまう。

 アンは困ったように笑みを零し、「ほら! だからナイショにしたのに~」と、おどけて口を尖らせてみせた。

 フォルテの目前に腰を落とし、「わたくしめがその水晶(クリスタル)の如きお涙を(ぬぐ)って差し上げます」と彼女の真似をして、絹のハンカチーフで優しく頬を拭いてやった。

「これで今朝のおあいこよ?」

「ひ、ひ、ひ、姫さま~!!」

 折角目尻が渇いたというのに、洪水のように涙が溢れ出してしまった。

 両手で顔全体を覆い、おいおいとむせび泣く侍女の身体を、姫は柔らかく包み込んだ。

 か細くも気丈なアンの背を見下ろしたレインは、

「フォルテ、全てはリムナトの問題であるのに、君たちを巻き込んで本当に申し訳ないと思っている。でも僕はアンを諦めた訳じゃない。必ず叔父を説得して、リムナトもナフィルも他の二国も、もちろん姫も……今まで通り守ってみせる。そのために昨日の一日、僕は「風」を探しに時を費やしたのだから」

「──風?」

 意味の見えぬまま振り向いたアンの疑問の瞳に、自信で満たされたレインの瞳が反射した──。