全員の気配が辺りから一切感じられなくなって間もなく、アンは(まと)った衣服に手を掛けた。

 まずはダークグレーのベストを、真っ白なシャツを、紳士らしいスラックスを地面に落とせば、もう彼女は一糸(いっし)まとわぬ姿となる。

 コルセットはネビアに剥ぎ取られてしまったし、泉に浸かった残りの下着は着替えた際に取り去っていた。

 真白い肌の凹凸に漆黒の長い髪が寄り添う。

 髪が隠す胸元に両手を絡め、アンは神に祈りながら泉の中心へ進んでいった。

 先程感じたように水は温かみを持って、彼女を歓迎するように光を集めてくれる。

 白砂は繊細で足の裏に優しく、アンの歩みに合わせて舞い踊る。

 泉の水は透明度が高く、徐々に深くなっても足先が鮮明に見えた。

 あと数歩で横たわった鉄格子の真中──つまりレインが眠る地の手前、まるで断崖絶壁のように地面が途切れ、アンは水底に(いざな)われていった。


 ゆうらり、ゆらり、ゆっくりと身体が落ちてゆく。

 ゆうらり、ゆらり、黒髪がたゆたう。


 泉の底は暗くなるどころか、益々光を帯びていった。

 どれほどの深さなのか、なかなか底には辿り着かなかったが、アンは息苦しさなど感じることはなかった。