スウルムは胸を詰まらせたような表情で深く頷き、語るための準備を始めるように外套(マント)を脱いだ。

 中から現れたのはナフィルにはない鮮やかな紺地の上下だが、留め具の装飾はナフィルの紋様に良く似ていた。

「レインが生まれたのは、私がクレネと風の渓谷へ向かう少し前のことだった。前王であった父と共に、姉と私はレインの生誕祭に招かれたのだ。広間でお披露目された生まれて間もないレインは、まるで天使のようなまばゆい輝きを放っていた。姉はそんな赤子の彼を抱かせてもらってね、随分と気に入った様子だった。それから数日してクレネと私が継承を決め、別れの挨拶に訪れた折、姉はこっそりと私に耳打ちしたんだ。「もし将来わたしに娘が生まれることがあったら、あの子(、、、)と一緒に「風を継承する者」にしてあげたい」と」

「え?」

 自分の母親が将来恋人となるレインを、そんな小さな頃から見初(みそ)めていたなんて──レインはそれほど光を集めた存在だった──アンはこの泉で出逢ったあの天使のような笑顔を思い出し、また肖像画でしか知らない母がレインを見詰めて微笑む姿を想像した。