◇水嶺のフィラメント◇

「さぁ、時間だ……僕をどうか、この泉に流して……。此処からずっと君を見守るよ。だけど一つだけお願いがある……君は君の道を、進んでほしい。僕のことは、いつか忘れて……」

「んんっ、んんん!」

 そのお願いにアンは咄嗟に(かぶり)を振った。

 まるでイヤイヤでもする子供のように、なりふり構わず拒絶する。

 ずっと心を埋め尽くしてきた恋人を忘れるなど、一体誰がどうして出来よう?

 レインを忘れて生きていくなど……それはアンには死んだも同然に思えた。

「今は出来なくていい……理解もしなくていい……ただ心の片隅に刻んでいて。そして僕がこの(すい)(れい)灯火(ともしび)となって、いつか君と君たちの国を……守れる時をどうか祈って」

「水……嶺……?」

 疑問を零したアンの唇が、うなじに回されたレインの手によって引き寄せられた。

 冷たい口づけを捧げたレインは、少し離れて見守るイシュケルに目をやった。