「この泉には沢山の力が宿っている……生きている内にこの身を浸せば、僕はきっとこの場所で、君をずっと見守ってあげられる」

「どうして……なの? どうしてこんなあたしなんかにっ……!」

 アンは二人からの視線に耐えきれず、グッと瞼を閉じて涙を落とした。

 握られたレインの手を両手で強く握り返したが、レインはそれに応えられる余力も残してはいなかった。

「君は『こんな』じゃないよ。もちろん『なんか』でもない……アンは初めて此処で逢ったあの時から……ずっと僕の……天使、だった」

「え……?」

 途端アンは泣くのをやめ、涙で曇った両目を上げたが、ぼやけた視界の中でもレインの姿だけはハッキリと見えた。

「君が僕を天使だと思い込んだように、あの時僕も君を天使と間違えたんだ。迷子になった小さな天使が、助けを求めて泣いているのだと思った」

「でも、あたしの髪は……」

「絵画の天使はみな金髪だけど、誰がそう決めたというの? 黒髪でも僕には君が天使に見えたんだ……君の艶のある髪が、僕はずっと大好きだったよ……」

 レインは心もとない腕をどうにか持ち上げて、アンの長い髪に指を滑らせた。

 途中で脱力した腕を受け止めたアンは、濡れたその手を自分の頬にそっと当てた。