「……メティア」

 次に呼ばれたのは、パニの後ろに座ったメティアであった。

「何だ!? レイン」

 メティアは自分の名が呼ばれることはないと思っていたのだろう、驚きながら一気に膝立ちをして、レインの視界に入るようパニの頭上から顔を寄せた。

「落ち着いたら、イシュケルとパニを、風の渓谷へ連れていってもらえるかな。それから……遅くなったけど、アンを守ってくれて、本当にありがとう……これからも、彼女の相談相手に……なってくれるかい?」

「あ、あったり前だろ! アンはもう、あたいのマブダチだからね!」

 焦って答えるメティアの大声に、レインはただ嬉しそうに笑いを零した。

「アン……」

 視線を逆側に移動させ、ずっとアンの手を包んだままのレインの手が、ギュッと握り締める力に変わる。

「ええ、レイン。ええ……」

 こんな時、恋人として自分はどう接すれば良いのだろう? 何が出来るのだろう?

 アンはひたすらその問いの答えを探していた。

 レインの傷を癒したい。けれどその為に自分はどうあるべきなのか?

「アン、ごめん……僕の命は……きっとそう長くない。だから一つだけ、君にお願いが、あるんだ……僕が、生きている内に……どうかこの身体を、泉に、沈めて……」

「えっ……?」

 レインの語るどれもこれもが、アンの耳には一切受け入れられなかった。

 アンの脳も一切理解が出来ず、やがて全てを拒絶し始めたアンの心は──



 一切の機能を停止した──