「レイン、でも……」

「イシュケル、パニ」

 レインはアンの懸念(けねん)(さえぎ)って、二人の名前を呼んだ。

「パニ……君の父上は、アンの叔父上で、スウルムという。そして母上は、このイシュケルのご息女で、クレネという名だ」

「スウルム、クレネ……」

 レインを挟んでアンの向かい側にしゃがみ込んだパニは、両親の名を噛み締めるように繰り返した。

「イシュケル……貴方のご息女は、スウルムさまと共に健在です。ネビアの言った生贄の話は、王家では通説となっていても、真実ではない……詳しくは、スウルムさまから聞いてください。僕が……クレネさまを、貴方の娘であると気付いてさえいれば……こんなことには……どうか、僕を許してください」

 謝罪の言葉で一旦話を止めたレインは、一度瞳を伏せると大きく息を吐き出した。

「許すも何も……わたくしこそ、これまでの無礼を何卒お赦しください。レインさまがお気付きになられなかったのは、スウルムが語らなかったからでございましょう? それはレインさまにすら語れなかった、ということではありませんか? 彼は娘と共に身を隠す必要があった……それがレインさまの口から漏洩(ろうえい)することを怖れていたからだと」

 レインの体調が見た目よりも悪いと(かんが)みたイシュケルは、レインの語りたい言葉を推測して代弁し、レインの負担を和らげようとした。

 理解したレインはただ首肯(しゅこう)するだけに留めて、その思いやりに小さく笑みを洩らした。