「レイン……」

 小さく呟かれる愛しき名。

 レインもまた同じくアンの名前を唇で辿る。

 そうしてスゥと静かに深呼吸したレインは、或る一つの決意をしたようだった。

 刹那その眼に力が(よみがえ)った。

「アン……愛しいアン。どうか思い出して、僕との日々を」

 ──レイン?

 アンにはレインの真意が分からなかった。

「アン……愛しいアン。どうか思い出して、僕が伝えた大切な言葉を」

「うるせぇ、レイン! こいつをひんむくまで黙ってろ!!」

 ──大切な……言葉?

 苦しみに耐えながら哀しい笑みを浮かべるレインの(おもて)、その力強い瞳の中心をアンの双眸ははっきりと()た。

 途端脳内をレインとの会話が駆け巡る。三歳から語られた全ての言葉が、文字を(かたど)り心の中で舞い踊る。

 しかし楽しそうに湧き上がるカケラたちの中、ひときわ重そうに底を(うごめ)く一節を見つけた。

 ああ、そうだ──思い出した。

 「どうか無事の帰国を、愛しいアン。万が一にも危険に(さら)された時には、「あの呪文」を(ささや)くんだよ。覚えているね?」

「やぁっとほどけた! ふん……思った通り美しい背だ。この表がどれだけ美しいか……これはお楽しみだな」

 クロスに編み込まれたコルセットの紐を全て引き抜き、ネビアは強引にその生地を端までめくった。

 アンの腰の上で大袈裟に舌なめずりをしてみせる。