「ぅくっ……」

 撫でた指先は首元に移り、ブラウスのボタンを外し始めた。

 アンは成す(すべ)もなく瞼を(つぶ)り、レインに見えないよう向こう側へ顔を反らした。

 もう誰にも止められない──そう観念して脱力したアンの耳に、聞こえた静止のお願いはイシュケルの声だった。

「ネ、ネビアさま、お待ちください! あのっ、「これからはネビアさまが王」とは一体……?」

「ああ? んなの決まってるだろ~? 前王の喪が明けたら次の王は俺なんだよ! まーだ気付かないのか? お前がナフィル兵と共に捕まった振りをしている間、おやじは一度も様子を(うかが)いに来なかっただろう? 俺はもうその前からおやじの家臣たちを買収しておいたのさ。お前についていた五人の従者だって、その前から俺に寝返ってたんだぜ。大体後先(あとさき)短いおやじなんかに、家臣はもうついて来やしないんだよ! おやじはこの数日、(やまい)に伏せって自室に籠っている設定になっている。まぁ今夜の会合には出席することになっていたから、今頃はおやじと俺──おっと、レインもか? ──どこに行っちまったんだと大騒ぎになっているだろうがな。でもそのお陰で、お姫サマとレインは感動の再会が出来たんだろ? おやじを始末する間お前たちは邪魔な存在だったからな、それくらいの猶予は与えてやったんだ。俺に感謝してくれたってイイんだぜ?」