「やめてくれ……ネビア!」

 レインの声は胸下の痛みからではなく、ただひたすらに(こいねが)うその想いから打ち震えていた。

「やめるワケなどないだろう? お前の所為でどれだけ俺が嫌な想いをしてきたと思ってるんだ!? これでやっとお前に屈辱を与えられる。愛するお姫サマをお前の前で(はずかし)められるなんて……くくっ、こんなに官能的なことはないよなぁ?」

「悪趣味この上ないって! ……反吐(へど)が出るっ」

 メティアは嫌悪を()き出しに吠え、目の前の床に唾を吐き出した。

 が、その首に剣を突きつける男が「黙れ!」と恫喝し、彼女の脇腹をしたたか蹴り上げた。

「メティア!」

「おいおい、他人の心配なんてしている場合かい、お姫サマ? それよりこれってフランベルジェの衣装だろう? 本来あんたはその女に連れられて、南方からナフィルへ戻る計画だったってわけだ。その途中ででも捕まえて此処まで引っ張ってくる手筈だったが、自らノコノコとやって来てくれたお陰で随分と手間が省けたよ。全てのタイミングが俺に協力してくれた! おやじがまもなくの王位継承のために、ナフィル兵が謀反(むほん)を起こしたなんていうくだらないデマを流してくれたのも、イシュケルを遣ってレインをおびき出してくれたのも……そうそう~元々おやじはあんたを拘束したかったのに、レインが引っ掛かったのは傑作だったね! 俺にとっては好都合だったけれども。尚更おやじには感謝しなくちゃいけないなぁ」