◇水嶺のフィラメント◇

「え? いや、ちょっと待て……アンの母親がナフィルの姫だって? じゃあ現ナフィル王はナフィルの王子じゃなかったのか?」

 驚いたメティアは質問をアンに向けたが、その無知を鼻で嗤いつつネビアが得意そうに説明を続けた。

「まったく風の民ってのは何も知らないんだな。ナフィルもリムナト同様、王位は男女構わず年功序列で回ってくるんだ。だがお姫サマは決まって女王にならず、他国の王家から婿をもらって王妃となる。だから現ナフィル王はアン王女にとっての父上で、亡き母上は飽くまでも王妃、弟のスウルムこそが王子だったが、王位継承権は姉君に次いで第二位だったというワケさ。みんな口を揃えてスウルムは有能だったとのたまうが、俺にはおバカな王子サマとしか思えないね。何せ姉さえ死んでくれれば自分が王になれたのに、真逆の事をしでかしたんだからな」

「それじゃ……首長(リーダー)は、姉である姫を生かしてやりたくて、クレネに近付いたっていうのか!?」

「そうだろうなぁ~」

 ネビアの唇は、全てがスウルムの思惑から始まったと説いていた。

 しかし今でもレインとメティアに慕われる自分の叔父が、そのような冷酷な過去を持つとは信じられない、信じたくない。

 真実を知る者はネビアなのか、レインなのか?

 アンは自分を見詰めるレインの瞳に括目した。

 その奥底に輝く本物の光が、彼の唇からつまびらかにされることを切望した。