◇水嶺のフィラメント◇

 ずっと無言で聴いていたメティアであったが、風の民に話が及んでさすがに疑問を発した。

 肩越しに振り向いたレインと戸惑うメティアの視線がかち合う。

 しかし説明しようと小さく息を吸ったレインよりも早く、ネビアが愉しそうに解説を始めた。

「イシュケル、風の民は二手に分かれてるんだとさ~世間に知られているのは、お前の言う通りその女を長とした集団だ。だがそれとは別にもう一つ「動かない風」の民がいる。赤毛の女……メティアと言ったか? 確かに男の知る首長の名もスウルムじゃなかったよ。だがそいつが教えてくれた首長の外見は、おやじから聞き出したスウルムそのものだった。で、お前が(うやま)う首長サマとやらは誰だと思う? 何と~アン王女の叔父上サマだ!」

「おじ……?」

 メティアの驚きの声に、同じ色をしたアンの声が重なった。

 生まれてこの方、自分に「おじ」と呼べる近親者がいたという記憶はない。

 だが「スウルム」という名前には微かに記憶があるのは事実だ。

 もしも本当にスウルムというおじがいるとするのなら──それは一体どのように消えてしまった過去なのか?

 メティアもアンも意味が分からず、視点がレインとネビアの間を右往左往する。

 その真中では突然告げられたスウルムの現状に、イシュケルが独り呆然と立ち尽くしていた。