◇水嶺のフィラメント◇

 一人目──向こう向きに両刀の影と闘う兵士の左脇腹を、後ろから力いっぱい右へ引く。

 現れた影の顎下を足先で思いきり蹴り上げて宙返り、着地した先の影の足首を(すく)い、崖側にバランスを崩させる。

 同時に影の背後から闘いを挑んでいた兵士にタックルを掛け、全体重で押し倒すと、左耳に銃声の響きと影の(あえ)ぐ声が吸い込まれてきた。

 二人目──パニは兵士の上から立ち上がり、唖然とする侍従二人とフォルテの肩をトンと押して通り過ぎた。

 三人は斜面によろよろと寄りかかるように崩れ落ちる。

 残るは兵士一人と影。

 が、どちらもパニの作戦を把握したのか、兵士がギリギリを狙って道をあけた先には、既にナイフを構える影が待っていた。

「俺はそう簡単にはやられやしない」

 言うや鋭い切っ先がパニの首スレスレを(かす)めた。

 勢いを押し留めて罠からの回避に無理矢理体勢を変えたパニの身体は、残念ながら影の手中に捉えられてしまった。

「パニっっ!!」

 リーフが叫びながら走り寄ったが、捕まったパニの後ろに隠れられて、影に照準が定められない。