◇水嶺のフィラメント◇

 一方列の前後に立ちはだかれ進路も退路も断たれた一行は、パニの扮する姫とフォルテを中心に二つの戦場と化していた。

「ヒュードル侯の差し金ですね! 姫さまには指一本触れさせません!!」

 と叫びつつも、フォルテの身はほぼパニによって守られている。

 兵士三人と頼りなくも侍従の二人が影二人に応戦する中、まだまだ余裕があるのか影の一人がご丁寧にもフォルテの質問に返答した。

「どなたの(めい)であるかなど、分からぬまま死ぬがいい! ……いや、死ぬのはお前だけでも十分だ──風の子よ!!」

 ──え……!?

 全員が驚きで固まった一瞬、答えた影が一気にパニに向かって走り込んできた。

 その勢いに侍従の一人が尻もちをつき、兵士の一人は弾き飛ばされて必死に崖下へしがみついた。

 振り上げられたナイフの煌めきにハッと我に返り、パニも手にしていた短刀の(つば)で寸前それを受け止める。

「どうして……ボクを!?」

 大人の男の力には、さすがに十三歳の細腕では及ばない。

 ナイフの刃先が徐々にパニの眉間に近付いてゆく。

 しかし背後から襲いかかる兵士の気配に気付き、影は一旦身をひるがえして斜面の上へ跳び上がった。