先日、母さんは亡くなった。

病気で、全身の筋肉が衰弱しきっていた母さんは、とうとう心臓までもが限界を迎えてしまったようだ。

身体の末端から中心へ、ゆっくり静かに病気に蝕まれていく母さんを見ているだけで、僕は居たたまれない気持ちになっていた。

最初は、よく転ぶようになった。

幼い僕のペースに合わせて歩いていた母さんが、突然何もないところで転ぶのだ。

「お母さん? 大丈夫?」

僕は、母さんがよく転ぶことではなく、その瞬間転んだ母さんの怪我を心配して、いつもそう声をかけていた。

「うん、大丈夫だから気にしないでね」

母さんはいつも、僕に心配される度に、そう言って笑った。

何も知らない僕は、母さんの優しい目が悲しみや不安を含んでいることになど気がつかなかった。

母さんの言葉通り、本当に何も気にしていなかった。

こんな結末を迎えることになるなんて知らずに。