わたしを抱きかかえる一之瀬くんの腕の力が緩んだから、すぐさま一之瀬くんから体を離した。


「足滑らせたのわかったから、とっさに手を伸ばしたけど…。マジでビビった。落ちるかと思って、冷や汗かいたし」


一之瀬くんの額から流れていた汗は、わたしを助けようと必死になったときに出た冷や汗だった。


「わ…わたしもっ。びっくりしたから、冷や汗が…」


と言って、手でパタパタと扇いでみせる。


だけど、わたしの汗は一之瀬くんのものとは少し違う。


後ろから体を抱きかかえられ、吐息がかかるくらいの至近距離で一之瀬くんの存在を感じて…。


――思わず、ドキッとしてしまった。


一見細身に見えるのに、筋肉で筋張った頑丈な腕に包み込まれて。

とっさの行動で、わたしを助けてくれたことがすごくうれしくて。