――そのときっ。


…ズルッ!

「…きゃっ!」


と、小さな声が漏れたときにはもう遅かった。


一段目を踏み外したわたしの体は、10段以上はあるであろう階段の踊り場の上から真っ逆さまに――。


あれ……?

…落ちなかった。



「あっ…ぶねぇ」


そんな声が耳元で聞こえて瞬時に振り返ると、すぐそばには額から汗が流れる一之瀬くんの顔があった。


なんと一之瀬くんは、階段を踏み外したわたしの体を、後ろから抱きかかえてくれていたのだった。


「…ありがとうっ、一之瀬くん」

「のんきにお礼なんか言ってないで。俺がいたからよかったものの、この高さから落ちたらケガだけじゃすまなかったって」

「う…うん、気をつけるね」


…どうしよう。

一之瀬くんと、こんなに密着したのは初めてだっ…。