俺は兄貴の出来損ない。


そんな奴に甲子園を目指す権利なんてあるんだろうか。


「おーい、千隼!集合遅れるぞ!」


「おぅ」


“お兄ちゃんは上手いのに弟は下手ね”

“もっとお兄ちゃんをお手本にして学びなさい”

“どうしてそんなこともできないの。ホント出来損ないね” 


幼少期にかけられた言葉をハッキリと覚えている。


俺は…兄貴には敵わないんだ。


生きてる人間は死んだ人間に勝てない。


いつまで経っても兄貴の幻影を追っては苦しくなる。


時間が経てば経つほど死人は美化されて心に居座り続ける。


“アンタは野球に向いてない”

“センスがない”“ヘタクソ”


どれだけ努力してもその言葉が背中を追いかけてくる。


俺は…いったいいつまで過去に囚われているんだろう。


もう過ぎたことなのに。
 

頭の中に突然響いては、球が投げられなくなって失投してしまう。


どんなに集中してても、隙間を縫うように母親の言葉が響くんだ。


そうなったらもう投げられない。


ボールが手につかなくてコントロールが定まらない。


一昨日の練習試合がそうだった。