“お前が死ねばよかった”


そんな言葉を投げかけられるとは思ってもみなかった。


母親は笑顔を消した。


家にはいつも冷たい風が吹いていた。


笑顔を消し、自暴自棄になる母親。


母親の笑顔を取り戻したい。


せめてもの償いとして。


俺が母親から兄貴を奪ったから。


母親に必要なのは俺じゃなくて兄貴なのに、俺が死ななかったから。


母親には笑顔でいてほしいんだ。


ない頭を必死で動かして考えた答えは、甲子園だった。


母親は兄貴の野球センスに期待をしていた。


プロになれるよって毎日のように笑っていた。


だから俺が兄貴の代わりに甲子園に出て、プロになれば、母親が笑ってくれるんじゃないか。


あの頃の笑顔を取り戻してくれるんじゃないか。


いいや。


取り戻さないといけないんだ。


俺が奪ったから。


俺が母親から兄貴を、兄貴から甲子園という夢を、奪ったから。


その贖罪としてやらないといけないんだ。