そろそろ前を向けるかと思っていたのに、まだダメみたいだね…。


「もっとストンって落としたいんだけどなー」


不満気にグラブをいじる千隼くん。


千隼くんのように、今は野球に集中しなきゃいけないよね。


千隼くんは自分の世界に入り込んだように何球も何球も繰り返し変化球を投げ込んでいる。


「あーっ、くっそ…」


思うようにいかないのか、何度も悔しそうに顔を歪める千隼くん。


「おい千隼！投げすぎだろ。少しは休めよ」　


ついには翔吾が近寄ってきて千隼くんを止める始末。


「もっと上手く投げれるはずなんだよ。あとちょっとだけやらせろ」


「ったく。今でも十分良い球投げてんじゃん。球筋千紘に見せてもらえよ。あんな変化球並のバッターは打てねぇぜ」


「俺が納得いかねーんだから仕方ないだろ」


納得行くまでやめない負けん気の強さ。


努力をやめないところ。


かっこいいな…と素直にそう思う。


悔しそうにしていてもその顔は輝いていて、活き活きしている。


千隼くんを好きになれたらどんなに楽だろう。


いつも近くにいて、私のことを好きって言ってくれて、私の前からいなくならない人。


朝陽くんのことを忘れられたら…。


千隼くんを好きになれたら…。


きっと…もっと楽に生きれたんだろうな……。