予選前の最後の練習試合だったのに千隼くんは大炎上。


マウンドで頭を抱える様子は見ていられなかった。


「もうすぐ予選だね…」


夏の甲子園への切符を賭けた県予選。


用意された切符はたったの1枚だけ。


優勝しなきゃ甲子園にはいけない。


一昨日みたいな試合をしてたんじゃ、勝ち目はない。


「緊張してんの?」


「…ううん。ただ…」


…甲子園に行けば朝陽くんに会えるんじゃないか。


その気持ちが今でも抑えられないんだ。


朝陽くんが無我夢中で目指していた夢舞台。


きっと、事故に遭わなければ甲子園に出場していただろう。


もしかしたら優勝までしてたかもしれない。


優勝に貢献したエースとして名を馳せていたかもしれない。


「……。新しい変化球試すから、軌道録画してくんね?」


…考えてもムダだよ。


朝陽くんはこの世にいない。


考えても意味ないのに…。


「おーい。軌道録画してほしいんだけど」


ヒラヒラっと千隼くんの大きな手が目の前で揺れる。