私たちのクラス2年A組に転校してきた望月千隼(もちづきちはや)は、確かにイケメンだった。
スッキリした顔立ちで爽やかな印象。
子供の頃から野球をしていると自己紹介してたけど、その割には色白の肌。
クラスの女の子たちは望月くんを取り囲んで質問攻めにしているけど、私には正直どうでもいい存在だったんだ。
クラスの中心格の安藤華(あんどうはな)が彼を狙っていることは一目瞭然だったから、安易に話しかけることもせず1日が終わった。
1日が終われば部活動が始まる。
朝陽くんとの約束を忘れるに忘れられなくて、気がついたら野球部のマネージャーになっていた。
踏ん切りがつかず、ズルズル続けてもう1年になる。
この学校の野球部は最高で県ベスト16と、さほど強いわけではない。
もちろん甲子園出場経験もない。
それでも野球に関わっていたくて、甲子園を諦めきれなくて、ここにいる。
甲子園に行きたい。
約束を交わしたあの日はまだ幼くて、甲子園がどんなところなのか分かっていなかった。
でも、大きくなってから、高校球児の夢の舞台である甲子園に強い憧れを抱くようになったんだ。
朝陽くんが目指していた舞台。
それだけで私にとっての価値は高かった。
「水原!今日会議でほとんど見れないから、部員のこと頼むぞ」
「はーい」
強豪校のようにちゃんとしたコーチや監督がいるわけでもなく、監督は顧問の体育教師。
こんなところで甲子園が目指せるのか分からないけど、朝陽くんの夢を忘れたくなくて諦めきれないんだ。
甲子園に行きたい。
連れて行ってよ……。
朝陽くん…。



