「千紘、おはよ」


朝陽くんに会いたい。


今頃朝陽くんはプロ野球選手になっていたかもしれない。


そう思うと、事故を起こしたトラックの運転手が憎くてたまらない。


朝陽くんは飲酒運転のトラックに轢かれた。


私が中学生になってからお母さんが教えてくれた。


「…千紘?」


「あぁ…ごめん、おはよう」


「どうせまた朝陽くんのこと考えてたんでしょ」


「…だって、5月なんだもん」


朝陽くんは5月に亡くなった。


だからこの時期は嫌いだ。


朝陽くんを思い出しては苦しくなる。


「ったくもう」


小学生の頃からの親友三原夏菜(みはらかな)は、呆れながら私の頭をクシャクシャにする。


「朝陽くんはもういないんだよ。いい加減前向きな?」


7年前のあの日から前に進める日が来るのだろうか。 


ずっと時が止まっていて、彼が忘れられなくて。


朝陽くんが所属していたクラブチームの練習場所の近くを意味もなく通っては、会えないかと期待して。


でも会えなくて落ち込んで。


会えない日々が苦しい。


夢では会えるのに、触れることはできない。


現実の世界で会うことも話すこともできない。


それが今でもつらいんだ。